『Die Enttaeschung』

Intakt CD 125

Rudi Mahall(bcl), Axel Doerner(tp), Jan Roder(b), Uli Jannennen(ds)

1. drei-null
2. Arnie & Randy
3. vorwaerts - rueckwaerts
4. Drive it down on the piano
5. Resterampe
6. Klammer 3
7. vorwaerts - rueckwaerts
8. Oben mit
9. viaduct
10. Very Goode
11. Wer kommt mehr vom ALG
12. Silke
13. Selbstkritik Nr.4
14. Silverstone Sparkle Goldfinger
15. Forground behind
16. 4/45
17. Mademoiselle Vauteck

Recorded 2006 in Berlin

セロニアス・モンクの全作品をひとつのコンサートで演奏する前代未聞のアイデアゆえに大きな注目を集めたアレクサンダー・フォン・シュリッペンバッハの『モンクス・カジノ』。シュリッペンバッハがこのプロジェクトを思い立ったきっかけは、このバンドDie Enttaeuschung(「失望」という意味)との出会いに遡る。Die Enttaeuschungは、90年代前半にベルリンへ出てきたルディ・マハールやアクセル・ドゥナーらによって作られたバンドで今はないアノラックなどの小さなクラブで演奏していた。
1995年にシュリッペンバッハにインタビューした際に彼らのことをこう言っていた。
「小さなベルリンのジャズ・クラブで彼らは毎夜のようにジャム・セッションを演っていて、自分達でリハーサルも行っている。(中略)サウンドは少し荒削りで、ECMサウンドのように心地よいものではない。全然ちがう。すべてのセロニアス・モンクの作品を演奏しようとする一方で新しいサウンドを創造しようとしている。彼らにとってはモンクとフリー・インプロヴィゼイションとの間にボーダーなどない」
この言葉は、彼らの音楽を実に的確に捉えている。その後、モンク・プロジェクトを通してこのバンドとシュリッペンバッハの共同作業が始まり、『モンクス・カジノ』となるのだ。
本作で演奏しているのは全てメンバー4人によるオリジナル曲。コンセプトが明確ながっしりとしたサウンドだ。アブストラクトな作品もあるがバップ的な演奏も。所謂「ユーロ・ジャズ」に求められるような耳障りのよさや洗練とは対極にあるジャズだろう。基本的にジャズのフォーマットで演奏されるが、ジャズのある種のスタイルを踏襲しているわけではないし、フリージャズでもない。だが、モンク、ドルフィーを始めとして彼らが通過してきたジャズのエッセンスは、一種のフラグメントとしてあちこちに表出している。彼らの歴史的なジャズに対する造詣はハンパではない。よき時代のジャズのファンなのだ。即興演奏の場では特殊奏法に徹している感のあるドゥナーもここでは凛々しくジャズ・トランペットを吹く。4者4様、その作品や演奏のあちらこちらで先人達のどこかに繋がっている。既に示唆された方向性や可能性を自身の創造活動の中でどう消化し、自分の音を出すか。自由なスピリットを持ったミュージシャンにはジャズという音楽は今も開かれた音楽だ。もし、21世紀の今、ジャズに可能性があるとするならば、ここにその鍵がある。
「失望」という意味のバンド名がシニカルでいい。ジャズには踏み外しが肝要。これは現代のベルリンからのジャズに対する回答だ。JT

(横井一江)

Kazue Yokoi, Jazztokyo, Japan,July 2007

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