#  875

『IRÈNE SCHWEIZER /TO WHOM IT MAY CONCERN』
text by 横井一江


Intakt CD 200

イレーネ・シュヴァイツァーのピアニスト人生が凝縮されたアルバム

 イレーネ・シュヴァイツァーのピアニスト人生がここに凝縮されている。聞き終えた時、そう思った。古稀を記念するコンサートにふさわしい音響のよいホー ルでのライヴ、録音もよく、鍵盤上の指の動きまでも伝わってくるようで、心地よく聞き惚れていた。パーカッシヴな奏法は彼女の持ち味、ピアノの深部から立 ち上がってくる一音一音が煌めいる。どのような場面、それがパワープレイであっても音色が損なわれず、際立っているのだ。アカデミックな演奏家とは異なる ピアニズムがあるということ、それを彼女のピアノは明確に伝えている。
 ヨーロッパ・フリー第一世代の女傑として、即興演奏でよく知られているシュヴァイツァーだが、入念にプログラミングされたこのコンサートでは即興演奏や 自身の曲だけではなく、珍しくジミー・ジュフリーやセロニアス・モンク、カーラ・ブレイ、ダラー・ブランド(アブドゥーラ・イブラヒム)の曲も取り上げて いる。ビバップと共に、60年代半ば南アフリカからアパルトヘイトを逃れてヨーロッパにやってきたミュージシャン、中でもダラー・ブランドは彼女のひとつ の原点であり、それがシュヴァイツァーの現在のピアニズムに息づいていると<クサヴァ>を聴きながらそう感じた。そのような彼女らしさがよく現れているの は、やはり自身のオリジナル曲であり、即興演奏である。<トゥ・フーム・イット・メイ・コンサーン>でシュヴァイツァーの世界にノックアウトされたら、そ のまま彼女のピアニズムに浸るのがいいだろう。ここまで聴かせてくれるピアニストはジャンルを問わず少ない。久しぶりにソロ・ピアノを堪能した。やはり シュヴァイツァーはスイスの至宝である。(横井一江)